落書きと犯罪のない安全な地下道をめざして
壁画でつくった「不思議なふしぎな壁だけの水族館」です。
「暗い」「冷たい」「汚い」「怖い」というイメージが強い地下道。
以前は、落書きの名所で、痴漢も多く、駅の地下道にもかかわらず夜はほとんど利用者はいませんでした。
春日部市からの要望は、
- 地下道のイメージをアップしたい。
- 落書きをなくしたい。
- 夜も安心して通れるようにしたい。
ということでした。
よく聞かれることですが、壁画を描けば落書きがなくなるかというと必ずしもそうではありません。
ただ、
- 壁画のイメージが明るく楽しくて、人の心が「温かく」「やさしく」なるもの。
- 共感や感動を呼ぶもの。
は、落書きがなく、人通りも増えるという当社の分析結果があります。
地下道を、「通路」から「集客施設」に変えるという発想
そこで、ただ楽しいだけではなく、本来は「通路」としての地下道を、
人が集まる「エンターテインメント空間」に変身させるという提案をしました。
つまり、「壁画を描く」というより「全く新しい空間をつくりだす」という発想です。
- 通路という苦痛な空間を、楽しく気分を変えてくれる空間に変える。
- 元々利用している人だけでなく、地下道を利用する必要のない人も通ることで通行量が増えて賑わう。
それがねらいでした。
テーマは「海底水族館」
東武伊勢崎線の沿線には水族館が一つもなかったので、「水族館」をつくることですぐ結論が出ました。
地下の水族館なので、「海底水族館」という設定にしました。
地上部分は、水族館の入り口らしく、モザイクタイルでクジラなどを表現。
「AQUARIUM(水族館)」という看板も表示しました。
地上の人を地下に誘い込む仕掛け
地下道内部の壁は、冷たいイメージを払拭するために、温かい砂岩の壁にしました。
階段部分は、
- よそ見をして、ぶつかったり渋滞したりしないように(安全対策)
- 地上から見ても全容が想像できないように(地下へ誘導する仕掛け)
できるだけ描かないことにしました。
人は、必要なく階段を登ったり降りたりすることを避けたがります。
必要のない人に通ってもらうには、強烈な仕掛けが必要でした。
それが、地上から見える正面の下がり壁です。
そこにはクジラの尻尾だけがのぞいています。
意外性と非日常性の世界です。
見た瞬間の驚きと注目が必要でした。
そして、「ちょっとだけよ!」といわんばかりにもったいぶって全容を見せないことで、
興味を引きつけて「もっと見たい」という興奮をつくりだすのがねらいです。
階段を降りるとそこは幻想的な海底の世界
中央通路は、左右と天井にガラス越しに海の世界が広がり、様々な海の動物が泳いでいます。
魚や動物の種類は、クジラやイルカ、マナティなど75種類。
海底はかの海底遺跡「アトランティス」です。
宮殿やアールヌーボーの彫刻などの財宝が海に沈んでいます。
正に幻想的な異空間が広がっています。
「6つのだまし絵」で楽しめるエンターテインメント空間
壁や天井には、随所にだまし絵を描きました。
- 通過するだけでなく、ゆっくり鑑賞して楽しめる。
- 話題性を作ることでクチコミで利用者を増やす。
それがねらいです。
だまし絵を紹介します。(紙面の都合で写真は割愛させていただきました)
- 階段が左右に動く。
- ナポレオンフィッシュの目がついてくる。
- まっすぐに進んでいた魚群がUターンしていく。
- 伏せていたイルカが仰向けになる。
- 宮殿の柱の破片が長くなったり短くなったりする。
- カレイが人が動く方向に向いてくる。
利用者が急増し、深夜も安心して通れるように!
当初のねらい通り、いやそれを遙かに上回る成果が出せました。
夜8時を過ぎると人気が全くなく、
地下道を避けて地上の踏切を遠回りしていた女性客も深夜でも安心して通るようになったこと。
消しても消しても絶えなかった落書きが、すっかり姿を消したこと。
新聞やTVにも何度も取り上げられ、「’95彩の国さいたま景観奨励賞」も受賞しました。
施工して23年も経過した現在でも、汚れや老朽化は進んでいますが、
未だにまちの名所として活躍しています。
現地を見学したい方は下記の地図からどうぞ
富士見町地下道「AQUARIUM(海底水族館)」
〒344-0061 埼玉県春日部市粕壁1丁目10