壁画を描いて落書きがなくなったという例は、うまく成功したケースです。一般に、壁画を描くと確かに落書きが減るという傾向はあるようです。

以下は、弊社の過去の17年間の経験といろいろな実験から出てきた仮説です。

(1)何も描いてない無機質な壁よりも、絵を描いてある壁の方が落書きは少なくなる。
(2)壁の一部に描いた場合よりも、壁全面に描いた方が落書きは少ない。
(絵を描いていない無地の部分に落書きされるケースが多い)
(3)壁画の中には、落書きを逆に誘発する絵がある。絵の内容によって大きく結果は異なる。
(4)どんなにいい内容の壁画を描いても、壁面の汚れや周辺のゴミの掃除などを怠ると落書きを誘発する環境になってしまう。
(5)地下道やトンネルの場合、照明の電球切れや照度不足、照明の色温度によって壁画のイメージが悪くなり、落書きが多くなる。

弊社では長年、壁画制作を専門にしてきましたので、(3)~(5)のことを特に多くの人に知ってもらいたい、特に行政の人に知ってもらいたいと痛感しています。

特に、(3)の壁画の絵の内容については力説したいと思います。

・暗いイメージ、不気味なイメージ、冷たいイメージの絵は避ける。
・暴力的、攻撃的なイメージの絵は避ける。
・汚い色使い、雑然とした絵は避ける。
・一時的な流行りはモチーフにしない。

逆にどんな絵がいいかというと、

・明るくて楽しい絵。
・ほのぼのとして温かい絵。
・見た人が思わずニコッとする遊び心のある絵。
・ファンタジックで夢のある絵。
・元気の出てくる絵。
・ほっとして心が和む絵。

まとめると、どんな時代でも時を超えて人が持っている「和」「楽」「温」「笑」などの普遍的な「平和で幸福な心」に呼びかけるような絵をデザインすること。ちょっと抽象的ですが、弊社では常にこのことばかりを考え、追求しています。人が喜ばない壁画は無益です。それはむしろ「壁画公害」ともなります。

アートは、それ自体が強力なパワーを持っています。表現の方向しだいで「人を幸せな気持ち」にも「暗くすさんだ気持ち」にも人を導きます。壁画を描く前に、これから影響を与える人々や地域のことを真剣に考えることが重要です。