後を絶たない壁画のトラブル

「壁画ではどんな塗料を使えばいいんですか?」

「壁画を描くのが初めてなので、失敗しない塗装のコツを教えてください」

画家や美大生から自治体や学校など様々な方から、よくそんな問合せをいただきます。

全国あちこちで見かける壁画は、プロの壁画専門業者が手がけたものもありますが、
画家の方や絵の上手い学生や素人の方によるものも少なくありません。

10年も20年も色鮮やかに残っているものもあれば、
たった2~3年で剥げたり色褪せたりして無残な姿になっているものもあります。

まちの美化のために描いたはずの壁画が、
逆にまちの景観を損なっている事例を見ると悲しい気持ちになります。

そこで、代表的な失敗例について、その原因と改善策をお伝えします。

これから壁画を描こうとしている方に、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

壁画を描くには、塗装の知識と技術が必須!

理由1. 建物の壁は、元々絵を描くために用意されたキャンバスではない。

壁画というと、絵を壁に描くだけだと思っている人がとても多いのに驚きます。

その安易な考えがトラブルの原因になるのです。

通常の絵画は、紙や布のキャンバスに絵の具を使って描きますが、
そこで使う絵の具はそのために用意されたものです。

つまり紙や布などに描くためのものであり、
木やコンクリート、金属など様々な素材の建物の壁に描くためのものではありません。

つまりキャンバス(「支持体」と言います)となる素材が異なり、
絵の具との相性が悪い壁があるということです。

端的に言えば、塗料が壁に対して密着していなかったり密着力が弱くて、
日が経つごとに剥げてくる現象です。

理由2.  壁画は、常に厳しいな環境にさらされる。

一般の絵画は、原則として室内に飾られます。

しかも、人が触れないような状態で設置され管理されます。

つまり、絵がとても恵まれた環境で守られています。

ところが壁画は、とても過酷な環境に置かれます。

人に触られたり汚されたりします。

外壁の場合は、雨風や厳しい気温差、排気ガスや
様々な有害物質にさらされる劣悪な環境に置かれます。

つまり、厳しい環境に放置される訳です。

最も代表的な失敗パターンと対処法

では、どんな失敗のパターンがあるのかを見てみましょう。

その1 3年以内に、塗装が剥がれてきた。

下地処理の不良で剥げた壁画

下地処理の不良で剥げた壁画

原因として考えられるのは、2つです。

ひとつは、下地処理ができていないケース。

まず壁の表面に付着したゴミや埃、汚れは、塗装の最大の敵です。

高圧洗浄機や洗車ブラシなどでキレイに水洗いをしてください。

シャッターなどの金属表面の油分も大敵です。

エチルアルコールや塗料用シンナーを含ませたウエスで、よく脱脂しましょう。

次に、壁の表面の素材や塗装膜とこれから塗る塗料の密着性を
事前によくしておかなければなりません。

下地の素材や塗装魔の種類とこれから塗る塗料の種類によって、
シーラーとかプライマーと呼ばれる下地調整剤を選んで塗布します。

下地処理剤「IP 含浸シーラー」

下地処理剤「SIP 含浸シーラー」

 

下地処理剤「SKミラクシーラーエコ」

下地処理剤「SKミラクシーラーエコ」

 

もしシーラーやプライマーがない場合は、
サンドペーパー(#180~#240の中目位がおすすめ)で表面をザラザラにします。

これを目荒しといって、表面に細かい凹凸をつけることで塗膜の食いつきをよくします。

大きな面積の場合は、ディスクグラインダー(電動工具)に研磨用パットや目荒しカップを取りつけて作業すると効率的です。

目荒らしした後は、ちゃんとウエスで粉を拭き取ってくださいね。

もうひとつは、塗料を無希釈で厚塗りをしたケース。

下地の色の透けを一気に塗りつぶそうとしたり、作業時間を短縮しようとして

一度に塗料を希釈せずに高粘度のまま厚塗りをすると失敗します。

塗膜にピンホールができてそこから水が塗膜に侵入し、塗膜を剥離させる原因になります。

それ以外にも、一度で厚塗りをすると乾燥時にヒビが発生しやすくなります。

その場では問題なくても、外気の寒暖差でヒビ割れが出ることがよくあります。

それに、厚塗りは刷毛ムラが出やすくて、仕上がりが醜くなります。

塗装が長持ちして、かつキレイな仕上がりを目指すなら、
一度に厚塗りしないで、薄く何回も重ね塗りするのが秘訣です。

その2 3年以内に、塗装が色褪せた。

まず考えられる原因は、塗料選択のミスです。

屋内専用の塗料や1年以内の耐久性しか保証していないイベント用の塗料を使用してしまった可能性があります。

つまり、最初から1年も持たない塗料を使ってしまったと言うことです。

塗料は、大別して水性と油性がありますが、それぞれに耐候性(耐久性)のグレード別の種類があります。

壁画では、アクリル塗料が一般的です。

弊社でも、アクリル塗料(水性、油性)が中心ですが、
ウレタン塗料、シリコン塗料、フッ素塗料も目的によって使い分けています。

壁画(特に屋外)では、最低でもアクリル塗料を使ってください。

塗装業界では、アクリル塗料は耐候性(耐用年数)の最も低い分類に入ります。

塗料の種類と耐用年数の大まかな目安は次の通りです。

アクリル塗料(5年前後)

ウレタン塗料(7年前後)

シリコン塗料(10年前後)

フッ素塗料(15年前後)

無機塗料(18年前後)

以上の耐用年数は、あくまでも大きな目安程度のものです。

これは、各メーカーの指示通りの下地処理と希釈率、塗り回数を守っていることが大前提です。

基準通りの施工をしていれば、メーカーが発表している耐用年数よりは少し延びるのが普通です。

ただ、メーカーに依っても違いますし、現場の日照条件で大きく変わってきます。

耐候性に最も影響があるのが日射による紫外線です。

なので、日照時間の違う北の地方と南の地方では違いますし、
壁が北向きか南向きかでも大きく変わってきます。

ちなみに、弊社の施工例で見ても、アクリル塗料(外壁)でも15~20年間もまだ健在のものがあります。

本来は5〜7年の耐用年数のはずのアクリル塗料が、
施工の仕方で最大3倍以上に延びることがあることを実際に確認しています。

これには2つの理由があります。

ひとつは、上塗り回数が本来2回(中塗り、上塗りという)のところ、
3回から色によっては7〜8回も塗り重ねています。

もうひとつは、アクリル塗料の壁画の上から
紫外線をカットするUVクリヤー(アクリルシリコン系やフッ素系)という
オーバーコート剤を塗布して耐用年数を延ばす工夫をしているからです。

経験値からいうと、この紫外線カットのクリヤーを施すことで、
本来の耐用年数の1.5~2倍に延びている感じです。

IP 水性UVクリヤー

IP 水性UVクリヤー|3分ツヤ、5分ツヤ、ツヤ有り(全ツヤ)

 

SK プレミアムUVクリヤーF

SK プレミアムUVクリヤーF(2液型)| 3分ツヤ、ツヤ有り(全ツヤ)

 

もうひとつは、基準の塗膜(厚み)が作られていなかったことが原因として考えられます。

塗料を薄めすぎて色褪せた壁画

塗料を薄めすぎて色褪せた壁画

塗料メーカーは、それぞれの塗料ごとに希釈率を定めています。

5%前後のものもあれば、20%前後のものもあります。

希釈率を守るということは、塗料が塗料としての性能を発揮するための前提条件でもあります。

必要以上に塗料を薄めて塗ると、まず密着力も耐久性も減退します。

塗膜が薄すぎて塗料としての機能が発揮されないのです。

水彩画を描く人は、水を多用します。

塗料というよりほとんど色がついている水といった方がいい位。

その感覚で実際の壁に絵を描くのは、無茶というより最悪です。

色を薄くしたければ、水で薄めるのではなく最初から淡い色を調色すること。

以上のことを最低限守っていただければ、塗装面でのトラブルはほとんどなくなると思います。

「もっと深く知りたい」「もっと詳細に知りたい」という方がいらっしゃったら、お気軽にお問い合わせください。

日本の壁画が健全に、そして少しでも質が高まっていくことを願っています。